2018年05月14日
労働委員会事務局
〔別紙〕
決定書の詳細
1 当事者の概要
- 申立人組合は、平成25年6月18日、被申立人会社の商品販売等を行う代理店の店主が構成員となり結成され、本件申立時には少なくとも4名の組合員が、本件結審時には少なくとも93名の組合員が在籍している。
- 被申立人会社は、兵庫県神戸市に本店を置き、女性用下着の販売等を業とする株式会社である。なお、本件申立時において、会社と本件代理店契約を締結して業務を行う代理店の数は約1,700店である。
2 事件の概要
平成25年6月18日、会社の商品を販売する代理店を営む者(代理店主)により、申立人組合が結成され、同月26日、組合は、会社に、代理店契約の改善等を求めて団体交渉を申し入れた。
会社は、団体交渉には応じないが、組合との面談という形であれば応じる旨を回答して、話合いの場が設けられたものの、団体交渉として協議の場を設けるかについて、労使の主張が対立して話合いは進展しなかった。
27年4月頃から、会社は、年間仕入額が600万円未満となることが見込まれる代理店との契約を解除した。そのため、5月27日及び6月8日、組合は、契約解除の撤回を求めて、再び団体交渉を申し入れたところ、会社は、団体交渉としては応じないが、意見交換の機会として応じる旨を回答した。
本件は、1)代理店主は労組法上の労働者に当たるか否か(争点1)、2)労働者に当たる場合、27年5月27日及び6月8日付けの組合の団体交渉の申入れに対して、会社が、意見交換の機会として応ずると回答したことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か(争点2)が争われた事案である。
3 主文
本件申立てを却下する。
4 判断の要旨
- (1) 代理店主は労組法上の労働者に当たるかについて(争点1)
代理店主が労組法上の労働者であるか否かは、労組法の趣旨及び代理店主の業務実態に即して、1)事業組織への組入れ、2)契約内容の一方的・定型的決定、3)報酬の労務対価性、4)業務の依頼に応ずべき関係、5)広い意味での指揮監督下での労務提供及び一定の時間的場所的拘束、6)顕著な事業者性の有無などの諸要素を総合的に考慮して判断すべきである。
1)本件代理店契約の実質的な目的、第三者への表示内容、専属的な業務実態、会社組織への組入れ状況などからすれば、代理店は、会社の事業遂行に不可欠な販売組織として組み入れられていると認められる。
2)代理店契約書は会社が作成した統一様式であり、代理店ボーナスの支払要件等も全代理店共通である。また、その改定等は会社が行っていることなどから、会社が代理店契約の内容を一方的、定型的に決定しているといえる。
3)代理店の主な収入である、傘下の下位販売者への卸売販売による差益や会社から支払われる代理店ボーナスは、傘下の下位販売者の販売力や営業成果、傘下の下位販売者の数などに左右され、また、会社から一定の支払額が保障された金員が支払われている事実も認められないことなどからすれば、代理店が得る収入は、代理店主の労務提供に対する対価又はそれに類する収入であるということはできない。
4)代理店は、消費者への営業活動を自らの裁量にて行っており、傘下の下位販売者への卸売販売についても、会社からの具体的な依頼を受けて行っている事情はない。また、傘下の下位販売者に対する指導・育成業務については、自己の裁量にて、その内容、対象者、実施日時等を決定しており、代理店は、会社から業務に係る具体的ないし個別の依頼を受けずに業務を行っている。以上のことなどからすれば、代理店は、会社からの個別の業務の依頼に対して応ずべき関係にあるとはいえない。
5)代理店は、マニュアル等を通じて具体的な業務指示を受けているとはいえず、また、具体的な業務内容、営業時間、定休日、営業地域等を自己の裁量で決定していることなどから、代理店は、業務遂行にあたり、会社から、広い意味での指揮監督下に置かれたり、一定の時間的場所的拘束を受けているとはいえない。
6)代理店の収入は、傘下の下位販売者に対する支援・育成業務や傘下組織の拡大に係る手腕等に左右され、また、代理店間における大きな収入の差異が認められることから、代理店には自己の才覚にて利益を増加せる機会が現実に存在しているといえる。そして、代理店は、営業上の損失リスクを負担したり、他人労働力を自由に使用して業務を行っていることなどからすれば、強い事業者性を認めることができる。
7)以上の事情を総合的に勘案すれば、代理店主は、自己の裁量にて、傘下の下位販売者にて形成された組織の維持と拡大を図りつつ、代理店契約等に従って商品を販売する、会社の事業取引の相手方とみるほかなく、会社との関係において、労組法上の労働者であると認めることはできない。
- (2) 組合の団体交渉の申入れに対して、会社が、意見交換の機会として応ずると回答したことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるかについて(争点2)
本件における代理店主が労組法上の労働者に当たらないことは上記⑴の判断のとおりであるから、争点2は判断を要しない。
- (3) 以上のとおり、本件代理店主は労組法上の労働者に当たらない。そうすると、本件代理店主を構成員とする本件組合は、労組法に定める労働組合であるとはいえず、同法による救済を受ける資格を有さない。
5 決定書交付の経過
- 申立年月日
平成27年6月24日
- 公益委員会議の合議
平成30年4月3日
- 決定書交付日
平成30年5月14日