2019年07月10日
東京都労働委員会事務局
〔別紙〕
命令書詳細
1 当事者の概要
- 申立人X1及びX2は、主として東京都内の企業に雇用される労働者によって組織される、いわゆる合同労組であり、本件申立時の組合員数は、それぞれ、約4,000名、約450名である。
- 被申立人会社は、アメリカ合衆国に本社を置く航空会社であり、本件申立時の従業員数は約80,000名である。
2 事件の概要
平成28年2月4日、航空事業を営む申立外Y2は、組合(X1及びX2)との団体交渉において、成田空港の事業所(成田ベース)を3月31日をもって廃止すること、成田ベース所属の客室乗務員には早期退職又は地上職への配置転換を提案することを述べた。
これ以降、組合とY2は組合員の雇用継続等について団体交渉を5回行ったが、Y2は、4月13日の団体交渉において、交渉はデッドロックであると述べて団体交渉を終了した。
その後、Y2は、5月31日付けで、早期退職又は地上職への配置転換に応じなかった組合員を解雇した。
29年4月1日、会社はY2を吸収合併した。
4月10日、組合は、会社に対し、本件解雇の撤回と組合員の復職を求めて団体交渉を申し入れたが、会社は団体交渉に応じなかった。
本件は、組合が4月10日付けで申し入れた団体交渉に会社が応じなかったことが、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否かが争われた事案である。
3 主文
本件申立ての棄却
4 判断の要旨
- 会社は、吸収合併によりY2の地位を引き継いだ。
したがって、合併前のY2が行った本件解雇について、Y2が団体交渉に応ずべきである場合には、会社が組合員の労働組合法上の使用者として団体交渉に応ずる義務を負う。
- 会社は、合併前のY2が行った本件解雇について使用者の地位を引き継いでいるところ、Y2は、28年2月4日から4月13日までの間に組合との団体交渉を5回実施した上で、団体交渉を打ち切り、本件解雇に至っている。
- Y2が成田ベースの廃止を通告してから、3月31日の廃止までは2か月足らずであって、さらにそれから2か月後の5月31日に同ベースに所属する客室乗務員である組合員が解雇されたこと、この間、同社は、同ベース廃止の方針を譲らなかったことをみれば、組合が同社の交渉姿勢を非難することも理解できないではない。
しかし、組合及びY2の団体交渉における対応をみると、Y2が5回の団体交渉において組合の求めに応じて具体的な数字等を記載した資料を提示しているのに対し、組合が既に説明のあった事項について追加の説明や資料を要求した様子はうかがわれず、成田ベースの廃止の理由等の説明に係るY2の団体交渉における態度が不誠実であったとまではいえない。
また、Y2が、組合員を客室乗務員として配置転換できるとする組合の提案には応じずに、早期退職プログラムと地上職への配転の二つの選択肢を提示して説明し、組合にそれらを受け入れるよう求めた対応が不誠実であったということはできない。
- 最後の4月13日の団体交渉においても、組合は、基本的に主張は変わっていないとして、従前同様、成田ベース廃止の撤回を求め、あるいは組合員を客室乗務員として配置転換する方法があるはずであるから、同社が雇用継続の方法を考えるべきである旨などの主張及び提案を繰り返し、一方のY2も、従前の主張及び提案を変えず、組合員が早期退職プログラム又は地上職への配転を受け入れないのであれば解雇を検討する旨を述べ、交渉を打ち切るに至った。
そうすると、組合とY2との団体交渉は、5回の交渉において双方がそれぞれ相応の主張や説明を繰り返したものの、合意には至らず、交渉を尽くした上での行き詰まり状態に達していたというべきである。
- 組合の会社に対する4月10日付団体交渉申入れは、本件解雇には「合理的な理由や目的がない」として、解雇された元Y2成田ベース客室乗務員の復職を交渉事項としていた。これに対し、会社は、Y2による本件解雇は有効であると考えている旨、本件解雇は29年合併の前に行われたので、会社が組合員の雇用主になったことはないし、現在でも雇用主ではない旨、また、組合の要求の趣旨を確認した上で、会社が組合員を客室乗務員として雇用することはできず、これ以上団体交渉で合意に至る可能性はない旨を回答して、団体交渉に応じなかった。
上記4.のとおり、組合とY2との団体交渉は、交渉を尽くした上で行き詰まり状態に達しており、本件解雇は、その団体交渉結果を受けて行われたものである。その後の会社とY2との合併によって、事情が変化している可能性があるとはいえるものの、組合は、4月10日付団体交渉申入れにおいても、また、この申入れに対して会社が要求の趣旨を確認した際にも、29年合併を経て会社が改めて団体交渉に応ずべき状況となったといえるような事情が生じたことについて特段言及していない。これらの状況からすれば、組合が4月10日付けで申し入れた交渉事項は、実質的には、Y2との5回の団体交渉における交渉事項と同様のものであると解さざるを得ず、会社が上記交渉事項について、これ以上団体交渉で合意に至る可能性はないとして申入れに応じなかったことも、やむを得ない対応であったというべきである。
したがって、組合が29年4月10日付けで申し入れた団体交渉に会社が応じなかったことが、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるということはできない。
5 命令交付の経過
- 申立年月日 平成29年4月24日
- 公益委員会議の合議 令和元年5月14日
- 命令書交付日 令和元年7月10日