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2018年11月19日
労働委員会事務局
[別紙]
命令書詳細
1 当事者の概要
- 申立人組合は、Y1の従業員である総本部指導員らにより結成された労働組合であり、本件申立時の組合員数は9名である。
- 被申立人Y1は、本部のほか、全国約900か所に道場を有する支部を置き、空手道の指導、普及、研究等を行う公益社団法人であり、本件申立時の従業員数は29名である。
2 事件の概要
- 平成26年5月23日、X2ら総本部指導員9名は、申立人組合を結成し、X2が執行委員長に就任した。6月20日、組合は、Y1に組合結成を通知した。組合は、その後、Y1に対し、給与や賞与についての情報開示等を求める文書を複数回提出したが、Y1は、これらに対し何ら応答しなかった。
- 27年2月17日、Y1は、X2が1)Y1の運営に関する各種の誹謗中傷行為(Y1に対する誹謗中傷を記載した文書の不特定多数への配布)、2)Y1の正常な運営を阻害しようとする行為(代議員資格がないのに他の総本部指導員を引き連れて臨時総会会場へ赴いたこと等)、3)パワハラ行為(後輩である総本部指導員ら複数に対する稽古に名を借りた暴力等)を行ったとして同人を懲戒解雇した。
- 2月18日、組合は、X2の懲戒解雇を議題とする団体交渉をY1に申し入れたが、Y1は、これに応じなかった。
- 4月15日、組合は、Y1が2月18日付団体交渉申入れに応じなかったことが正当な理由のない団体交渉の拒否であるとして、当委員会に対し本件不当労働行為救済申立てを行った。8月19日、組合は、請求する救済内容に、X2の懲戒解雇を撤回し原職に復帰させることを追加した。
- 当委員会は、本件申立てのうち当初の団体交渉に関する申立てを分離して審査し、29年4月6日、Y1が団体交渉に応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に該当すると判断し、文書交付等を命ずる全部救済命令を発した。
- 本件は、Y1がX2を懲戒解雇したことは、同人が組合員であること若しくは同人が労働組合の正当な行為をしたことの故をもって行われた不利益取扱及び組合運営に対する支配介入に当たるか否かが争われた事案である。
3 主文(全部救済命令)
- X2の懲戒解雇をなかったものとして取り扱い原職復帰させること、及び懲戒解雇の翌日から原職に復帰するまでの間の賃金相当額の支払
- 文書交付及び掲示
- 前各項の履行報告
4 判断の要旨
- Y1は、組合結成通知後、組合からの質問や要求に対して応答すらしないという組合を軽視ないし無視する態度で臨んでいた。こうしたY1の態度は、組合の委員長であるX2の組合活動を嫌悪していたことを推認するに十分なものがある。
- 解雇事由1「Y1の運営に関する各種の誹謗中傷行為」について
Y1が、Y1が誹謗中傷と指摘する本件文書2件に名前が記載されていた者のうち、X2のみを狙い撃ちにして就業規則違反の責を負わせたことは、公平性を著しく欠き、その一事のみをもってしてもおよそ適正な処分とはいい難い。また、本件文書の記載内容自体が、Y1に対する誹謗中傷ということはできず、懲戒解雇という重大な処分へ結びつけるのが相当であるということは到底できない。
- 解雇事由2「Y1の正常な運営を阻害しようとする行為」について
Y1は、臨時総会会場に赴いた他の総本部指導員らに対しては、注意・指導・処分等を行うことなく、専らX2のみを狙い撃ちにしたもので、著しく公平性・合理性を欠いた手続であり、適正な処分であったということは到底できない。仮にそのことをおくとしても、X2らの行動によりY1の運営が阻害された事実は認められず、また、阻害される蓋然性が高いということもできないから、このことをもって就業規則の懲戒解雇事由に該当するということは到底できない。
- 解雇事由3「パワハラ行為」について
- Y1は、従前、X2に事情聴取や注意、指導を行ったことはなく、また、懲戒解雇以前に、X2の「パワハラ行為」について被害者とされる者及び目撃者など第三者に調査を行った事実もない。
Y1が「暴行」の被害者と主張する者7名のうち(ア)4名については、本件審査やX2個人の解雇無効確認訴訟において自ら「暴行」を否定している。(イ)1名については、理事の一人が個人的に直接話を聞いたものの、Y1が組織として直接、被害者とされる者に事情聴取を行ったことはなく、また、それまで問題になったことのない23年秋頃の行為であって、27年2月になってから懲戒解雇の事由としたことは唐突かつ不自然であり、X2を懲戒処分に処する目的をもって、同人を狙い撃ちにして過去の行動をあえて挙げたものとみざるを得ない。(ウ)2名については、暴行があったかどうかは定かではないが、Y1が本件解雇以前に何ら調査を行わず、本件審査において初めて、いわば後付けで具体的な暴行の事実を主張したもので、これら暴行が本件懲戒解雇当時その理由とされていたとは認められない。
- Y1が挙げる「複数の指導員に対して自由意思を無視する態様にて労働組合への加入を勧誘した」、及び「労働組合を脱退した、又は、脱退しようとした指導員に対して恫喝をした」との点については、そのような事実は認められない。
- 不当労働行為の成否
- 上記のとおり、本件懲戒解雇の各懲戒事由は、対象となる事実の有無が不明であったり、就業規則の懲戒事由に該当するとは認められないなど、いずれも懲戒解雇処分の根拠として相当であるということができないものであるとともに、本件懲戒解雇に至るまでの手続面をみても、公正性や合理性を著しく欠いている。一方、組合結成通知からX2の懲戒解雇に至るまでの労使関係をみると、Y1は、組合がY1の運営に批判的な活動を行っていたことから、組合の実態が、経営権の奪取を目的とした反経営陣運動であると認識し、組合に対する嫌悪を抱き、組合からの質問や要求に一切応答しないという組合を軽視ないし無視する態度で臨んでいた。
- そして、Y1が、(ア)連名で行った本件文書の作成等の行為について組合の執行委員長であるX2のみを狙い撃ちにしたこと、(イ)組合の行った行為をX2個人の懲戒事由としたこと、(ウ)事実関係が不明であるにもかかわらず、組合加入の勧誘や組合脱退時に係るX2の行為を取り上げて懲戒事由としたことを併せ考えれば、X2の解雇は、経営陣に批判的な活動を行う組合の組織拡大を危惧し、その弱体化を図る意図に基づくものであって、執行委員長としてY1に批判的な組合活動を行うX2を嫌悪し、同人に不利益を与えるとともに、同人をY1から排除することによって、組合の影響力の抑止を企図したものであるといわざるを得ない。
- なお、Y1が、組合の実態を経営権の奪取を目的とした反経営陣運動であると認識していたことからすると、Y1は、反経営陣運動を嫌悪して、その抑制を図ったものにすぎず、労働組合としての組合活動を嫌悪したり、労働組合の影響力の抑止を企図したりしたものとはいえないのではないかとの点が一応問題となり得る。
しかし、Y1が組合の実態を経営権の奪取を目的とした反経営陣運動であると主張する根拠は、組合が、総本部指導員の会員資格の復活をさせるべく社員総会に定款変更の議案を提案するよう要求したり、Y1内で発生した重要案件の事前協議等を要求したり、質問状(Y1が代議員1名に総会で代議員資格を行使させなかったことに対し、組合がY1に経緯の説明等を求めた文書)を発したことと解されるが、これらは、正当な組合活動に当たるというべきである。
そして、組合が組合員の労働条件の改善のための活動を行っていたことは明らかであり、組合の中心人物であるX2を懲戒解雇すれば、そのような労働条件の改善のための組合活動が抑制されることをY1が認識していたことも明らかである。
そうすると、Y1が、組合の活動を、Y1に対する反経営陣活動と捉えていたとしても、組合の活動を嫌悪し、その抑制を企図して、組合の執行委員長であるX2を狙い撃ちにしたことは、正当な組合活動の抑制を企図し、正当な組合活動を理由に不利益な取扱いをしたものであると評価せざるを得ない。
- したがって、本件懲戒解雇は、X2が組合員であること、及び労働組合の正当な行為をしたことを理由とした不利益取扱に該当するとともに、同人をY1から排除することによって、Y1から組合の影響力を排除しようとした支配介入にも該当する。
5 命令交付の経過
- 申立年月日 平成27年4月15日
- 公益委員会議の合議 平成30年10月2日
- 命令交付日 平成30年11月19日
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