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2019年07月23日
東京都労働委員会事務局
〔別紙〕
命令書詳細
1 当事者の概要
- 被申立人会社は、肩書地に本社を置き、事業目的を貨物自動車運送事業、貨物利用運送事業等とする、全国に支店を展開する株式会社である。
会社従業員は、申立外Z1(以下「本件多数組合」という。)を結成しており、本件多数組合は、東京支店及び広島支店において、それぞれ従業員の過半数を組織していた。
- 申立人組合は、業種に関わりなく一人でも加盟できる合同労組であって、全国で組合員数は約400名である。
平成28年5月、会社広島支店(以下「広島支店」という。)の従業員が組合に加入し、X2(以下「広島分会」という。)を結成した。29年2月、会社東京中央支店(以下「東京支店」という。)の従業員が組合に加入し、X3(以下「東京分会」という。)を結成した。
2 事件の概要
- 被申立人会社では、集配業務を担当する従業員(以下「集配職」という。)の能率手当を算定するに当たり、賃金対象額から時間外手当相当額を控除する方法を採用していた(以下、この賃金体系を「本件賃金体系」という。)。
平成28年5月、申立人組合は、会社に支部を結成し、組合は、本件賃金体系の是正を要求した。
6月14日、組合員9名が、会社を被告として、本件賃金体系により差し引かれた時間外手当相当額の支払を求めて提訴した(以下「本件訴訟」という。)。
29年10月2日、組合は、本件賃金体系の是正を求めて会社と団体交渉を行ったものの、双方合意に至らなかったため、一定の残業を拒否する残業拒否闘争(以下「本件拒否闘争」という。)を開始した。
11月1日、会社は、組合員には朝に指示する集荷業務及び午後に電話で指示する集荷業務の量を減少させ、定時で帰宅させる措置(以下「本件措置」という。)を開始した。
30年1月31日、組合が本件拒否闘争を終了し、これを受けて会社も本件措置を終了した。
- 本件は、29年11月1日から30年1月31日までの申立人組合員らに対する本件措置が組合活動を理由とする不利益取扱い及び組合の組織・運営に対する支配介入に当たるか否かが争われた事案である。
3 主文の要旨
- 会社は、組合員に対し、平成29年11月1日から30年1月31日までの間に集荷業務量を減らしたことによって減少した賃金差額相当額を支払うこと。
- 文書掲示及び交付
要旨:組合員の集荷業務の量を減らし、賃金を減額させたことが不当労働行為と認定されたこと。今後、このような行為を繰り返さないように留意すること。
- 履行報告
4 判断の要旨
- 本件措置の不利益性について
組合が一部の集荷業務を拒否する形態の本件拒否闘争を行っている以上、会社がこれに対応する業務を組合員に命じないことは当然である。しかしながら、会社が行った本件措置は、本件拒否闘争を行っていないことが明らかな東京分会の組合員も含めたX4の組合員全員に対して、一切の残業を行わせないというものであって、これによる組合員の収入の減少(1~12万円程度)は、相当大きなものであった。そして、その結果、東京分会の組合員のうち7名が組合を脱退するという、組合の組織にも大きな打撃を与えるものであった。
- 会社は、組合が労働組合の正当な行為を行ったことを理由として本件措置を執ったといえるかについて
- ア 会社が組合に本件拒否闘争の対象業務の範囲を確認しなかった点について
会社は、本件拒否闘争の対象業務に疑問が生じていたのであれば、組合に対して、同闘争の対象業務を確認することはできたといえるし、確認することが容易であったと考えられるにもかかわらず、組合に対して一切確認を行っていない。本件措置は、本件拒否闘争を行っていない東京分会の組合員を含めたX4の組合員全員に対して一切の残業を行わせないという措置であり、同闘争の範囲を組合に確認することもなく、このような極端な措置を執った会社の対応には、大いに疑問があるといえる。
会社が本件拒否闘争に組合の統一的な方針を見いだすことができなかったことから、会社が組合に確認することは現実的ではなかったと主張する。しかし、組合と会社との交渉経緯とは食い違いがあるものの、組合の本件拒否闘争には一応の方針を見いだすことができる。会社において、組合の統一的な方針を見いだすことがおよそ不可能という結論に至ったのは、会社が本件拒否闘争開始後に組合に対して何らの確認もしなかったことが原因であり、この点の会社の主張を採用することはできない。
- イ 会社が主張する本件措置を執った理由について
会社は、1)本件拒否闘争の対象業務の範囲が不明確であったため、組合員が集荷業務を行うことを前提に人員配置及び業務命令を行っても、当日になって組合員に集荷業務を拒否される可能性があり、その結果、当日中に集荷を行うことができずに顧客からの信頼を失うおそれがあったこと、及び2)本件多数組合が本件拒否闘争について対応を求めており、職場の崩壊が生じ得る状況であったことから、これらを理由に本件措置を執ったと主張する。
- (ア)しかし、会社が組合に対して、広島支店における本件拒否闘争の具体的な範囲を確認していれば、会社が主張する問題を未然に防ぐことができた可能性が高いのであるから、上記1)の事情が本件措置を正当化するに足りる事情ということはできない。
また、会社が本件措置を執った11月1日の時点では、本件拒否闘争の対象業務は既に明らかになっており、組合員が集荷することを前提としていた集荷業務を拒否されることにより、当日中に集荷を行うことができなくなることを懸念するような状況にはなかったといわざるを得ず、この点においても上記1)の事情が本件措置を正当化するに足りる事情ということはできない。
- (イ)上記2)については、確かに10月23日、本件多数組合が、会社に対し、業務改善要請書を交付し、本件拒否闘争により、職場の規律、秩序が乱れており、職場の崩壊を招く可能性が高いことを指摘するとともに、早急に問題を解決するよう要請した事実が認められるが、本件拒否闘争により、具体的に職場の崩壊を招く可能性が高いと認められるような事実の疎明はない。
会社において何らかの対応が必要であったとしても、本件のように、会社が本件拒否闘争の範囲を確認することすらせずに、一方の労働組合に対してのみ一切の残業を行わせない措置を執ったことは、軽率であったといわざるを得ず、会社の対応は、明らかに必要な対応の範囲を超えていたというべきである。
- ウ 本件における労使関係について
組合は、X4及び広島分会の結成当初から、本件賃金体系の是正を一貫して要求しており、組合員と会社との間では、28年6月14日以降、本件賃金体系が違法であることを前提とする本件訴訟が大阪地方裁判所に係属していた。
会社が本件措置を執った29年11月の時点では、組合と会社との間で、本件賃金体系の是正に関する団体交渉が決裂し、組合として集荷業務を一部拒否するという本件拒否闘争を行っていた。
これに対して、本件多数組合は、残業したくないのであれば全ての残業を行わせなくていいなどと指摘しつつ、職場の崩壊を危惧して会社に業務改善を迫り、会社は、組合に対して本件拒否闘争を行わないように要求するなど、組合と会社との労使関係は、極めて緊迫した状況にあった。
- エ 本件措置の意図について
会社の対応は、本件拒否闘争による業務上の支障に対処するため、実際に業務上の支障を生じさせた組合員に残業を行わせなかったというよりも、組合が本件賃金体系の是正を求めて組合活動を行っていることを理由に組合員全員に対して本件措置を執ったのではないかと疑わせるに足りるものといえる。
この点に加え、本件措置が行われた時期が労使関係の極めて緊迫した時期であったこと(前記ウ)、会社が本件措置を執ったとする理由がいずれも採用できないこと(前記ア及びイ)を併せ考えれば、会社は、労働組合の正当な行為である本件拒否闘争を嫌悪し、これを理由に同闘争を行った組合及び組合員に打撃を与える意図で本件措置を行ったものとみざるを得ない。
- 結論
したがって、本件措置は、組合が労働組合の正当な行為である本件拒否闘争を行ったことを理由とする不利益取扱いに当たるとともに、組合活動を萎縮させることを企図した組合の運営に対する支配介入にも当たる。
5 命令書交付の経過
- 申立年月日
平成29年11月6日
- 公益委員会議の合議
令和元年6月4日
- 命令書交付日
令和元年7月23日
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